11月26日、14年ぶりの円高で、日本のデフレ現象を強めるとの懸念が広がる。
26日の東京市場は、ドル/円が14年ぶりに86円台へ下落し、円高が日本のデフレ現象を強めるとの懸念が広がっている。ただ、日経平均は小幅の下落にとどまり、長期金利の低下幅も限定的で、為替から株、債券への波及は静か。
ドル/円の下げだけが目立つ展開だ。円高の大きなうねりが見える前に株と債券で調整が先行していたことが影響しているとみられるが、円高がさらに進行して日本経済への打撃が大きくなれば、株安を通じてされにデフレ色が強まりかねないと警戒する声も出ている。
<対円相場がドル安をけん引>
外為市場ではドル安が急速に進んだ。対円で一時86.35円と95年以来14年ぶり対スイスフランで0.99スイスフラン前半と昨年4月以来、1年7カ月ぶり安値を更新。
対ユーロも1.51ドル前半と海外市場で付けた1年3カ月ぶり安値圏で弱含みとなり、主要6通貨に対するドルの値動きを示すドル指数も1年3カ月ぶり低水準を更新した。
現在のドル安には様々な側面が指摘されている。米低金利政策の長期化見通しやドル基軸通貨体制への懸念、世界的な財政出動で下支えされた株高を背景に投資家がリスク選好姿勢を強めている点などが挙がっている。だが、前日からきょうにかけてドル安が勢いづいたのは、対円で心理的な節目を下抜けたことがきっかけ。豪ドルやユーロなどに比べ、ドル安地合いの中で出遅れ感が指摘されていた円が対ドルで動き始め、ドルの広範な下落を後押しする形となった。
ドル/円の下げがきつくなったことで、円は他通貨に対しても大きく上昇。きょう正午過ぎまでにユーロ/円は130円後半と前日夕方の高値から1.8円、英ポンド/円は144円半ばへ同3円、豪ドル/円は79円後半へ同2円の下げとなった。
クロス円でもドル/円と同様に、これまで買い込んだ向きが損失確定の売り戻しに動くストップロスを相次ぎ巻き込んだという。
市場では、低金利・低成長の円が大きく買われてきたことに首をかしげる参加者も少なくない。バンクオブアメリカ—メリルリンチがグローバル投資家を対象に毎月実施している聞き取り調査でも、今後1年間に日本株をオーバーウエイトしたいと回答した投資家は11月にマイナス27%と2002年11月以来の低水準を記録。
日本に資金が大きく流入するような状況ではない。
ある外銀のチーフディーラーは「クロス円がドル/円に引きずられて下落しているので円が強含みとなっているが、あくまで今はドル安局面。多くの参加者が下値めどと指摘する85円も強烈な節目というわけでもなく、それを割り込んで下落する可能性も十分出てきた。80円前半への下げもあり得る」と話している。
<円高進行でも日経平均下げ渋り>
株式市場では日経平均が下げ渋っている。ドル/円が86円台へと円高方向に進んだことで輸出株中心に売りが出たものの「チャート上の節目となる200日移動平均線を割れ、短期的な目標達成感から先物が買い戻された。売り込まれた銀行、証券などの金融セクターや不動産などにも買い戻しが入っている。
ただ、円高への警戒感は強く戻りは鈍い」(準大手証券情報担当者)という。
急ピッチで進む円高とその底流にあるデフレが、日本株の圧迫要因になっている。
JPモルガン・アセット・マネジメントのエコノミスト、榊原可人氏は「米国、日本とも短期金利はゼロに近く、対ドルで円高が大きく進む理由は強くないはずだが、日本当局のデフレに対する姿勢が円高につながっている可能性がある」と指摘する。榊原氏は「政府がデフレ宣言しながら中央銀行はバランスシートを拡大させようとせず、デフレや円高を止めようという姿勢がみえない。予算の無駄をなくすことはいいが、デフレ状況下で財政を縮小するようにみられてしまえば、日本はデフレを脱却するプランが欠落していると受け止められてしまう」と懸念している。
また、円高が日本経済の単発エンジンである輸出企業の採算を悪化させるという声が強まってきた。日興コーディアル証券・シニアストラテジストの河田剛氏は「ホンダなど主力輸出企業が最も厳しく想定しているレート(85円)を割り込むかどうかがポイントだ。その水準を下回れば、日経平均は一気に8500円付近に下落するとみている」と指摘する。
また、第一生命経済研究所・主席エコノミストの嶌峰義清氏は円高の影響として「来期の企業業績の回復を織り込んで上昇きた期待感がはく落し、日経平均で9000円程度まで一気に下落する可能性がある」と予想する。
さらに「世界的に需給ギャップに苦しみ中央銀行が通貨安政策に傾斜しているなか、日本は遅れをとっている。政府がデフレ宣言を出し、内需不振や需給ギャップは他の国・地域と比較してもより深刻であるにもかかわらず、当局の姿勢がはっきりしない。政府や日銀による、円高修正の姿勢を示す発言などが求められる」と今後の当局の対応に注目している。 他方、ユーロ高/円安に着目した見方も出ている。みずほ証券・投資情報部長兼投資戦略部長の倉持靖彦氏は「ユーロが想定より高いため、相殺すれば(円高の影響は)2%程度の減益であり、冷静にみればそれほど大きな悪材料ではない。企業体質が為替の影響を受けにくくなっていることもある」と述べる。
だが、ここから値幅を伴う円高に進めば「トップラインは着実に回復しているが、デフレと円高が企業に打撃を与える。一定の警戒感は出てくるだろう。需給や政策などの内部要因も日本株の重しになる」と指摘する。
実際、今日の市場で株の下げが小さいのも「すでにかなり下げており、結果的に円高に先行して売ってきた参加者が多いことを物語っている」(国内証券)という声も出ている。 海外勢は今のところ日本株を大きく売り越していないが、このまま「政府や日銀の消極的な姿勢が続けば、日本株ウエートの引き下げもあり得る」(外資系証券)と見方も出ている。 26日の円債市場も高値圏でもみあい。国債先物12月限は前日の米債高や円高、株安の流れを好感し短期筋の買いが優勢の展開で取引を始めたが、10月初旬につけた高値である139円70銭が意識され139円後半からは売りが出やすくなった。
市場では「景気の弱さは明らかだが、財政リスクがくすぶり円債を積極的に買えるかというとそういうこともない。実際、株から本格的に債券に資金がシフトしているような動きも見えず、投資家は様子見姿勢を強めているというのが現状だろう」(国内証券)という。今後の政府の財政政策だけでなく海外金利、為替市場の動向も見極めたいとの声も多く、円債市場は当面、材料探しの展開が続きそうだ。
via headlines.yahoo.co.jp
最近のコメント